行政書士試験範囲変更の話(7・住民基本台帳法編)


 

 長々続けてきた行政書士試験範囲変更の話。総務省が発表している『「行政書士試験の施行に関する定め」の一部改正について 概要』

内の改正点に例示されている、行政書士法・戸籍法・住民基本台帳法について触れるべく書き連ねてきましたが(だいぶ脱線しても来まし

たが)、どうにか最後の住民基本台帳法まで到達。ここまでの回で散々挙げてきましたが、総務省発表の資料を確認したい方はこちら。

➡ 行政書士試験の施行に関する定め」の一部改正について 概要

1 職務上請求書との関係

 まず、行政書士としては、住民基本台帳法の最も押さえなければいけないのは、第十二条の三。

住民基本台帳法 第十二条の三(本人等以外の申出による住民票等の写しの交付)

第十二条の三 市町村長は、前二条の規定によるもののほか、当該市町村が備える住民基本台帳について、次に掲げる者から、住民票の写しで基礎証明事項(第七条第一号から第三号まで及び第六号から第八号までに掲げる事項をいう。以下この項及び第七項において同じ。)のみが表示されたもの又は住民票記載事項証明書で基礎証明事項に関するものが必要である旨の申出がありかつ当該申出を相当と認めるときは当該申出をする者に当該住民票の写し又は住民票記載事項証明書を交付することができる
 一 自己の権利を行使し又は自己の義務を履行するために住民票の記載事項を確認する必要がある者
 二 国又は地方公共団体の機関に提出する必要がある者
 三 前二号に掲げる者のほか、住民票の記載事項を利用する正当な理由がある者
2 市町村長は、前二条及び前項の規定によるもののほか、当該市町村が備える住民基本台帳について、特定事務受任者から任している事件又は事務の依頼者が同項各号に掲げる者に該当することを理由として、同項に規定する住民票の写し又は住民票記載事項証明書が必要である旨の申出がありかつ当該申出を相当と認めるときは当該特定事務受任者に当該住民票の写し又は住民票記載事項証明書を交付することができる
3 前項に規定する「特定事務受任者」とは弁護士(弁護士法人を含む。)、司法書士(司法書士法人を含む。)、土地家屋調査士(土地家屋調査士法人を含む。)、税理士(税理士法人を含む。)、社会保険労務士(社会保険労務士法人を含む。)、弁理士(弁理士法人を含む。)、海事代理士又は行政書士(行政書士法人を含む。)をいう
4 第一項又は第二項の申出は、総務省令で定めるところにより、次に掲げる事項を明らかにしてしなければならない
 一 申出者(第一項又は第二項の申出をする者をいう。以下この条において同じ。)氏名及び住所(申出者が法人の場合にあ  つては、その名称、代表者又は管理人の氏名及び主たる事務所の所在地)
 二 現に申出の任に当たつている者が、申出者の代理人であるときその他申出者と異なる者であるときは、当該申出の任に当たつている者の氏名及び住所
 三 当該申出の対象とする者の氏名及び住所
 四 第一項に規定する住民票の写し又は住民票記載事項証明書の利用の目的
 五 第二項の申出の場合にあつては、前項に規定する特定事務受任者の受任している事件又は事務についての資格及び業務の種類並びに依頼者の氏名又は名称(当該受任している事件又は事務についての業務が裁判手続又は裁判外手続における民事上若しくは行政上の紛争処理の手続についての代理業務その他の政令で定める業務であるときは、当該事件又は事務についての資格及び業務の種類)
 六 前各号に掲げるもののほか、総務省令で定める事項
5 第一項又は第二項の申出をする場合において、現に申出の任に当たつている者は市町村長に対し、個人番号カードを提示する方法その他の総務省令で定める方法により、当該申出の任に当たつている者が本人であることを明らかにしなければならない
6 前項の場合において、現に申出の任に当たつている者が、申出者の代理人であるときその他申出者と異なる者であるときは、当該申出の任に当たつている者は、市町村長に対し、総務省令で定める方法により、申出者の依頼により又は法令の規定により当該申出の任に当たるものであることを明らかにする書類を提示し、又は提出しなければならない。
7 申出者は、第四項第四号に掲げる利用の目的を達成するため、基礎証明事項のほか基礎証明事項以外の事項(第七条第八号の二及び第十三号に掲げる事項を除く。以下この項において同じ。)の全部若しくは一部が表示された住民票の写し又は基礎証明事項のほか基礎証明事項以外の事項の全部若しくは一部を記載した住民票記載事項証明書が必要である場合には、第一項又は第二項の申出をする際に、その旨を市町村長に申し出ることができる。
8 市町村長は、前項の規定による申出を相当と認めるときは、第一項に規定する住民票の写し又は住民票記載事項証明書に代えて、前項に規定する住民票の写し又は住民票記載事項証明書を交付することができる。
9 第一項又は第二項の申出をしようとする者は、郵便その他の総務省令で定める方法により、第一項に規定する住民票の写し又は住民票記載事項証明書の送付を求めることができる

 長い内容になってますが、なぜここが重要かというと戸籍法でも登場しましたが、行政書士は個人情報の最たるものである戸籍・住民票

を、職務上請求書を用いて入手することができます。原則的には、本人または第一項に該当する者の委任状が無ければ取得できない書類を

職務上請求書を用いれば(身分証明も必要ではあるが)取得できるわけです。委任状無しなので、行政書士が自己完結(依頼者に何がしか

の書類を書いてもらうことなく)で戸籍謄抄本・住民票の写しを手に入れられるのです。で、あるがゆえに、残念な話なのですが、不正使

用の問題が起こってしまっているわけです。

 さて、行政書士の業務の面から言えば、職務上請求書で戸籍関係の書類を取得できることより、住民票関係の書類を得られる方が利便性

が高いと言えます。戸籍関係が必要なのは相続関係がメインになりますが、住民票関係は許認可や自動車関係の仕事でも必要になります。

 許可申請の際では、建設業・産業廃棄物処理業・風俗営業等を行う法人の役員(取締役)の添付資料として、個人の場合では、自動車登

録や外国人の在留資格に関係する申請などでも住民票の写しが必要になります。

 今では、マイナンバーカードを利用すれば、コンビニエンスストアでも住民票を取得できますし、その方が役所の窓口で取得するより

手数料が安い場合もあるのですが、依頼者や関係する方々が自ら取得し郵送していただく(またはこちらから取りに伺う)のは面倒でしょ

う。特に仕事をされていればなおの事です。その場合は、「全部お願いね」の方が、依頼される方の利便性に資すると言えるでしょう。

 と、言うわけで、我々行政書士が職務上請求書で、住民票関係の書類を取得できる、というのは業務を行うわけで重要なのです。もっと

も、許可取得関係の場合は、大体、委任状もいただいているので、それで住民票関係の取得はできます。ちなみに、第九項に関しては

郵便で取得可能=役所に行く必要はない、という事です。

2 総則

 本来、法の趣旨を考えれば、こちらが先の話なのかもしれませんが、住民基本台帳法の基本的な話です。

➀ 目的

第一条 目的

第一条 この法律は、市町村(特別区を含む。以下同じ。)において、住民の居住関係の公証選挙人名簿の登録その他の住民に関する事務の処理の基礎とするとともに住民の住所に関する届出等の簡素化を図り、あわせて住民に関する記録の適正な管理を図るため、住民に関する記録を正確かつ統一的に行う住民基本台帳の制度を定め、もつて住民の利便を増進するとともに、国及び地方公共団体の行政の合理化に資することを目的とする。

➁ 責務

 住民基本台帳法では国・都道府県市町村長住民の3者の責務+すべての人の責務が定められています。

 1⃣ 国・都道府県の責務:市町村の住民の住所又は世帯若しくは世帯主の変更及びこれらに伴う住民の権利又は義務の異動その他の住民としての地位の変更に関する市町村長、その他の市町村の執行機関に対する届出その他の行為が全て一の行為により行われ、かつ、住民に関する事務の処理が全て住民基本台帳に基づいて行われるように、法制上その他必要な措置を講じなければならない。(2条)

 ここで登場する「届出その他の行為」というのは転入届・転出届などの「住民としての地位の変更に関する届出」のこと。これを一つの

行為として行われるように法整備(国)、必要な措置を講じなければいけない、という話です。

 2⃣ 市町村長の責務

  ➊ 常に、住民基本台帳を整備し住民に関する正確な記録が行われるように努めるとともに、住民に関する記録の管理が適正に行われるように必要な措置を講ずるよう努めなければならない。(3条1項)

  ❷(市町村長・執行機関は)住民基本台帳に基づいて住民に関する事務を管理し、又は執行するとともに、住民からの届出その他の行為に関する事務の処理の合理化に努めなければならない。(3条2項)

 3⃣ 住民の責務:常に、住民としての地位の変更に関する届出を正確に行うように努めなければならず虚偽の届出その他住民基本台帳正確性を阻害するような行為をしてはならない。(3条3項)

 住民にも責務があるのがポイント。といっても、届出が必要な時は、嘘つかずにちゃんと届け出なさい、という当たり前の話です。

 4⃣ すべての人の責務:住民基本台帳の一部の写しの閲覧、住民票の写し若しくは住民票記載事項証明書、除票の写し若しくは除票記載事項証明書、戸籍の附票の写し、戸籍の附票の除票の写し等のの交付により知り得た事項を使用するに当たって、個人の基本的人権を尊重するよう努めなければならない。

3 住民票の記載事項

 まず、◎住民基本台帳を作成しなければならないのは市町村長であるという事は覚えておきましょう。(6条)

◎ 住民票には以下の事項が記載されています。

➀ 氏名
➁ 出生の年月日
➂ 男女の別
④ 世帯主についてはその旨、世帯主でない者については世帯主の氏名及び世帯主との続柄
➄ 戸籍の表示。ただし、本籍のない者及び本籍の明らかでない者については、その旨
➅ 住民となつた年月日
⑦ 住所及び一の市町村の区域内において新たに住所を変更した者については、その住所を定めた年月日
⑧ 新たに市町村の区域内に住所を定めた者については、その住所を定めた旨の届出の年月日及び従前の住所

⑨ 個人番号
⑩ 選挙人名簿に登録された者については、その旨
⑪ 国民健康保険の被保険者である者については、その資格に関する事項で政令で定めるもの
⑫ 後期高齢者医療の被保険者である者については、その資格に関する事項で政令で定めるもの
⑬ 介護保険の被保険者その資格に関する事項で政令で定めるもの
⑭ 国民年金の被保険者である者については、その資格に関する事項で政令で定めるもの
⑮ 児童手当の支給を受けている者については、その受給資格に関する事項で政令で定めるもの
⑯ 住民票コード

◎ 住民票の記載消除又は記載の修正に関しては、届出に基づき、又は職権で行われます

◎ 上記のを『基礎証明事項』といいます。

 ※ 戸籍の修正(訂正)の場合は、一般に家庭裁判所での手続きが必要ですが、住民票の場合は(市町村長の)職権で行えます。戸籍の       附票も同様なので、ここは注意です。

4 住民基本台帳の閲覧と住民票の写しの請求

◎ 住民基本台帳は原則、非公開ですが、以下のような場合には、市町村長は、その活動に必要な限りにおいて一部の写しを閲覧させる

 ことができます(第十一条、第十一条の二)。

➀ 国・地方公共団体の機関が、法令で定める事務の遂行のために必要な場合

➁ 統計調査世論調査学術研究その他の調査研究のうち、総務大臣が定める基準に照らして公益性が高いと認められるもの

➂ 公共的団体が行う地域住民の福祉の向上に寄与する活動のうち、公益性が高いと認められるもの

④ 営利以外の目的で行う居住関係の確認のうち、訴訟の提起その他特別の事情による居住関係の確認として市町村長が定めるもの

◎ 住民票の写し等は、本人以外の者が請求を行うことができます(第十二条の二、第十二条の三・・・上に記載)。

➀ 国・地方公共団体の機関が、法令で定める事務の遂行のために必要な場合

➁ 自己の権利を行使し、又は自己の義務を履行するために住民票の記載事項を確認する必要がある者(例・債権回収の為に債務者の住所が必要な債権者)

➂ 国又は地方公共団体の機関に提出する必要がある者(例・相続の手続きで必要な場合・・・遺言執行者など)

④ 前二号に掲げる者のほか、住民票の記載事項を利用する正当な理由がある者(例・統計調査・学術研究などで本人の承諾の下で追跡調査などをする場合の調査・研究機関)

 もちろん、最初に触れたように、受任している事件・事務で住民票の写しが必要な士業も請求できます。

 さて、冒頭の方に記載している第十二条の三に、『住民票記載事項証明書』という語が出てきていますので、その説明もしておきます。

 ◎ 住民票記載事項証明書・・・住民票の項目のうち申請者が希望する項目のみを記入=住民票記載のものと相違ない旨を証明した書類

  ※住民票の写し=市町村にその住民が居住していることの証明=居住地の証明

 見出しのタイトルには直接関係しませんが、もう1つ。除票と除票簿(第十五条の二,三)についても。

 ◎ 除票・・・転出・死亡などで除かれた住民票=かつてその市町村に居住していたことの証明,死亡したことの証明や前後の住所の証明にもなる。

 ◎ 除票簿・・・消除した・改製前の住民票(住民基本台帳から取り除かれる住民票)を、別にまとめたもの

  ※ 市町村長は除票簿を保存しなければならない

5 戸籍の附票と住民票コード

 『戸籍の附票』なのに、なぜ戸籍法ではなくこちらに出てくるのか、と思われるかもしれませんが、まず、『戸籍の附票』には何が記載

されているかから確認しましょう。

戸籍の附票の記載事項(第十七条)

第十七条 戸籍の附票には、次に掲げる事項について記載する。
一 戸籍の表示
二 氏名
三 住所
四 住所を定めた年月日
五 出生の年月日
六 男女の別
七 住民票に記載された住民票コード  (一部省略)

 ポイントは住所の記載があること。戸籍謄本などでは本籍地の記載はあるものの、現在の住所(どこに住んでいるか)はわかりません

現在は変わりましたが、令和6年3月までは、戸籍謄本等は現住所のある役所では請求できず、本籍地でなければ請求できませんでした。

これを、本籍地側から見ると、本籍地のある役所では、本籍地はわかるものの、今どこに住所があるかはわからないわけです。そこで

本籍地側から、その人が今どこに住んでいるかをわかるようにしたものが戸籍の附票です。つまり、戸籍上の人物の住所を記載した資料

が、戸籍の附票ということになります。別な言い方をすると、戸籍住民票を連携させる書類が戸籍の附票と言えます。

 では、住民票との違いは何かというと、住民票では現住所の記載、せいぜい現住所の1つ前の記載しかありませんが、戸籍の附票には

戸籍(本籍)を定めてからの住所の履歴が記載されています。ですので、住所の移動記録が必要な時は戸籍の附票を請求することになり

ます。また、実務面では現住所の証明として、住民票の代わりに戸籍の附票で証明できることが多いですが、戸籍の附票でなければマズい

場面もあります。典型例は、自動車の名義変更の際に、印鑑証明書の住所(≒住民票の住所)と車検証の住所が異なっている場合に、2回

以上の住所の移動があると、住民票では追っかけられません。この場合には戸籍の附票が必要になります。

 最後に、住民票の記載事項や戸籍の附票の記載事項に登場している、住民票コードについて説明しておきます(第三十条の二)。

◎ 住民票コード・・・住民基本台帳に記載されている全ての人に付与される11ケタの番号(任意の番号=希望不可)

これを読むと、マイナンバーと何が違うのか、と思われる方もいるでしょう。そもそも、マイナンバーは住民票コードを基に11ケタ

→12ケタ(マイナンバー)に変更したものです。で、住民票コードは「住民基本台帳法により決められた本人確認情報の提供先である

行政機関などで本人確認を行うために使われます」(仙台市ホームページより)。具体的にはパスポート申請の際、住民票の写しが不要に

なった代わりに住民票コードが活用されています。また、行政書士としては縁の深い建設業では、土木施工管理などの技術検定で、第一次

検定のみを受験する場合は、インターネットからの申し込みが必須で、その新規申し込みの際に住民票コードが必要になります。

 住民票コードを指定するのは地方公共団体情報システム機構が、総務省令で定めるところにより、市町村長ごとに、当該市町村長が

住民票に記載することのできる住民票コードを指定し、当該市町村長に通知します(第三十条の二)。

 また、「住民基本台帳に記録されている者は、その者が記録されている住民基本台帳を備える市町村の市町村長に対し、その者に係る住

民票に記載されている住民票コードの記載の変更を請求することができます(第三十条の四)

 ※ 番号の希望は不可。元の番号には戻せない。

 長い話になりましたが、行政書士試験範囲変更の話は、ひとまず、これにておしまいとさせていただきます。どのような問題となるかは

フタを開けてみなければ、となりますが、お役に立てれば幸いです。

 長いシリーズになった挙句、更新頻度が落ちているので、すっかり試験ネタばかりになってしまいましたが、次回からは他のジャンルの

話を書いていきたいと思いますので、お読みいただければ幸いです。それでは最後までお読みいただきありがとうございました。


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