行政書士試験範囲変更の話(4・行政書士法編後編)


 またまた、前回に続いて試験範囲変更・行政書士法編です。さすがに今回で完結します。そうしないと、この後戸籍法編もあるので

もたもたやっていると、試験日がどんどん近づいてしまいますからね…。ちなみに前回までは、こちら。

⇒ 行政書士試験範囲変更の話(2 行政書士法編前編)

⇒ 行政書士試験範囲変更の話(3 行政書士法編中編)

 今回は、まず【特定行政書士】の話から。これは、この度の試験範囲変更の動機になっている部分でもあります。

総務省から出されている『「行政書士試験の施行に関する定め」の一部改正について 概要』を見ると

「行政書士試験の施行に関する定め」の一部改正について 概要 抜粋

 行政書士法については、平成17 年に行った前回の試験内容の見直しに伴う本告示改正以降、法律の目的に「国民の権利利益の実現に資すること」が明記されたほか、聴聞又は弁明の機会の付与等に係る行為の代理を業務として法定化し特定行政書士制度の創設等の行政書士の業務に関し必要な改正が行われるとともに、・・・以上のような制度の改正、役割の拡大に的確に対応するため、行政書士試験において問うべき「行政書士の業務に関し必要な知識及び能力」について(以下略)「行政書士試験の施行に関する定め」・・・改正しようとするものである。

と、なっています。ですから、特定行政書士の制度を理解しておくことは、対策するに値する話ではないかと思います。

上記『「行政書士試験の施行に関する定め」の一部改正について 概要』の全文を確認されたい方は、こちらをどうぞ。

⇒ 総務省 「行政書士試験の施行に関する定め」の一部改正について 概要

 本編の前に、今回の話に関係する条文などをまとめて。

試験範囲変更部分

第二 試験科目
 二 行政書士の業務に関し必要な基礎知識
一般知識、行政書士法等行政書士業務と密接に関連する諸法令、情報通信・個人情報保護及び文章理解の中からそれぞれ出題することとし法令については、試験を実施する日の属する年度の四月一日現在施行されている法令に関して出題するものとする。)

行政書士法 第一条の二・三(業務)

第一条の二 行政書士は、他人の依頼を受け報酬を得て官公署に提出する書類(その作成に代えて電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によつては認識することができない方式で作られる記録であつて、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)を作成する場合における当該電磁的記録を含む。以下この条及び次条において同じ。)その他権利義務又は事実証明に関する書類(実地調査に基づく図面類を含む。)を作成することを業とする

 行政書士は、前項の書類の作成であつても、その業務を行うことが他の法律において制限されているものについては、業務を行うことができない

第一条の三 行政書士は、前条に規定する業務のほか、他人の依頼を受け報酬を得て、次に掲げる事務を業とすることができる。ただし、他の法律においてその業務を行うことが制限されている事項については、この限りでない

 前条の規定により行政書士が作成することができる官公署に提出する書類を官公署に提出する手続及び当該官公署に提出する書類に係る許認可等(行政手続法(平成五年法律第八十八号)第二条第三号に規定する許認可等及び当該書類の受理をいう。次号において同じ。)に関して行われる聴聞又は弁明の機会の付与の手続その他の意見陳述のための手続において当該官公署に対してする行為弁護士法(昭和二十四年法律第二百五号)第七十二条に規定する法律事件に関する法律事務に該当するものを除く。)について代理すること。

 前条の規定により行政書士が作成した官公署に提出する書類に係る許認可等に関する審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立ての手続について代理し、及びその手続について官公署に提出する書類を作成すること

 前条の規定により行政書士が作成することができる契約その他に関する書類を代理人として作成すること。

 前条の規定により行政書士が作成することができる書類の作成について相談に応ずること。

 前項第二号に掲げる業務は、当該業務について日本行政書士会連合会がその会則で定めるところにより実施する研修の課程を修了した行政書士(以下「特定行政書士」という。)に限り行うことができる

3 特定行政書士

 【特定行政書士】なる資格は【ただの行政書士】と何が違うのか、というのがまず気になるところでしょう。その辺については

上に挙げている、第一条の三の第一項第二号と第二項(紫字)を読めば説明になっています。

 “行政書士が作成した官公署に提出する書類に係る行政庁に対する不服申立ての手続について代理・手続について官公署に提出する

書類を作成をできるのが特定行政書士というわけです。余談ですが、バッジも違います。特定行政書士のバッジは行政書士のバッ

ジより一回り大きいです。

 ここで、行政法との関係から、【行政書士】【特定行政書士】のできることの違いを見ましょう。

第一条の三第一号は【行政書士】ができることです。ざっくりと言えば

 ① 官公署への作成した書類の提出手続の代理ができること

 ② 作成した書類に係る許認可に関する聴聞又は弁明の機会の付与の手続その他の意見陳述のための手続の代理ができる。

ということです。

 ①に関しては、そりゃ書類の提出はできるでしょ、と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが(行政書士試験を受験される方だ

といないか…)、この場合の“代理”は、提出先において書類の誤りが判明した際、“自ら代理人として書類の訂正を行える”、という話

 以前の第一条の三では、“提出する手続を代わって行い”であったので、そのまま読めば“代行”≒“使者”というニュアンスなので、そ

の場で依頼人への意思確認無しに訂正できない、という解釈になっていました。

 ポイントは②です。行政手続法にある聴聞の代理人になれる、ということです。聴聞では口頭意見陳述が行われるのですが、その

代理ができるわけですから、依頼者に変わって意見陳述を行えるわけです。かつての『行政書士=書類を書く(だけの)人』イメージ

からの脱却は、行政書士会の念願でもあるので、この辺をしっかり書いてくれているのは、行政書士側からは重要な点です。

 そもそも、聴聞又は弁明の機会の付与の手続というのは、決定した処分に対する手続ではありませんこれから予定される処分に対

する手続です。だからこそ、“法律事件に関する法律事務”には該当しない、という言い方が成り立つわけです。なので、弁護士の独占

業務に踏み込んでないですよね、という話です。

 しかし、決定された処分そのものに不服があった場合は、これまでは行政書士には対処の手段がありませんでした。決定された処分

に対しての『不服申し立て』は『“法律事件”の法律事務』なので、弁護士案件になってしまっていたわけです。実際に弁護士法第七十

二条にズバリ明示されてしまっています。

弁護士法 第七十二条

 第七十二条 弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。  ※(文字色は筆者)

 行政書士側から言えば、自分で作成した書類に対して、行政側が申請拒否をしてきた際に、今までは争いようがなかったわけです。

あとは、弁護士先生お願いします、になってしまうわけですね。その辺をどうにかしたい、というのは行政書士側から見れば、自然な

話ではあるでしょう(割り込まれる弁護士側から見れば違ってきますが…)。

 というわけで、この壁を突破するには、弁護士会側にも納得してもらえる新たな枠組みが必要でした。

 既に、司法書士や税理士や社労士などには、不服申し立て代理ができる仕組みがあります。しかし、行政書士の場合は、同業が作成

した書類に関する、という限定を設けても扱える範囲が広すぎる、というのが懸念としてありました。

 そこで、日行連の“研修”を受け、考査に合格した者に対して【特定行政書士】として、“行政書士が作成した官公署に提出する書類

に係る行政庁に対する不服申立ての手続について代理・手続について官公署に提出する書類を作成をできるようにしたわけです。

 その一方で、行政事件訴訟法に関係する手続に関しては、代理・書類作成を行うことはできません。行政書士試験を受験される方に

とっては、今更ながらの話ですが、行政不服審査法関係は、舞台が行政庁であるのに対し、行政事件訴訟法関係の舞台は裁判所です。

そういう意味では、不服申立ては行政庁の決定に対して、仲間である行政庁による審理であるのに対し、訴訟は司法による判断を得よ

う、という話なので、不服申立てでは、白黒つけましょうという話にはならないのが弱いところではあります。

 そんなところで、まとめ

 ・ 行政手続法による、『聴聞又は弁明の機会の付与の手続その他の意見陳述のための手続の代理』は、行政書士であればできる。

 ・ 行政不服審査法による、『行政書士が作成した官公署に提出する書類に係る行政庁に対する不服申立ての手続について代理・手

  続について官公署に提出する書類を作成』をできるのは、特定行政書士だけ。

   ⇐ 扱える範囲は、行政書士が作成した官公署に提出する書類

    =“自分で作成した書類”でなくても、他の行政書士が作成した書類でも可

 ・ 行政事件訴訟法に基づく訴訟に関わる代理・書類作成は、行政書士,特定行政書士如何にかかわらず不可

 以下、ついでの話。特定行政書士を取得すると、日行連のサイトで検索できる行政書士名簿内に、特定行政書士であることが記され

ています。これは、行政書士法内にこのような条文があるからです。

行政書士法 第七条の三

第七条の三 日本行政書士会連合会は、行政書士が第一条の三第二項に規定する研修の課程を修了したときは、遅滞なく、当該行政書士の登録に特定行政書士である旨の付記をしなければならない。

 日本行政書士会連合会は、前項の規定により行政書士名簿に付記をしたときは、その旨を当該行政書士に書面により通知しなければならない。

 さらに、ついで。特定行政書士を得るための“研修”の料金は金8万円也、となっております。一般的には、試験合格直後なら、行政

法関係の記憶があるだろうから、すぐに受けた方が良い、と言われています。どうせ新人なんて、そうそう仕事が入るわけではないの

で、時間だけはある場合が多いですからね。その一方で、仕事がなくて時間だけはある、という状況で8万円って…。その8万円の売

上得るのがどれだけ大変か。生活費や事務所のコストも必要な中での8万円ですからね。これ以上の話はやめておきます(苦笑)。

4 第一章 総則 第二条

行政書士法 第二条

(資格)

第二条 次の各号のいずれかに該当する者は、行政書士となる資格を有する。

 行政書士試験に合格した者

 弁護士となる資格を有する者

 弁理士となる資格を有する者

 公認会計士となる資格を有する者

 税理士となる資格を有する者

 国又は地方公共団体公務員として行政事務を担当した期間及び行政執行法人(独立行政法人通則法(平成十一年法律第百三号)第二条第四項に規定する行政執行法人をいう。以下同じ。)又は特定地方独立行政法人(地方独立行政法人法(平成十五年法律第百十八号)第二条第二項に規定する特定地方独立行政法人をいう。以下同じ。)の役員又は職員として行政事務に相当する事務を担当した期間通算して二十年以上(学校教育法(昭和二十二年法律第二十六号)による高等学校を卒業した者その他同法第九十条に規定する者にあつては十七年以上)になる者

(欠格事由)

第二条の二 次の各号のいずれかに該当する者は、前条の規定にかかわらず、行政書士となる資格を有しない。

 未成年者

 破産手続開始の決定を受けて復権を得ない者

 禁錮以上の刑に処せられ、その執行を終わり、又は執行を受けることがなくなつてから三年を経過しない者

 公務員(行政執行法人又は特定地方独立行政法人の役員又は職員を含む。)で懲戒免職の処分を受け、当該処分の日から三年を経過しない

 第六条の五第一項の規定により登録の取消しの処分を受け、当該処分の日から三年を経過しない者

 第十四条の規定により業務の禁止の処分を受け、当該処分の日から三年を経過しない者

 懲戒処分により、弁護士会から除名され、公認会計士の登録の抹消の処分を受け、弁理士、税理士、司法書士若しくは地家屋調査士の業務を禁止され、又は社会保険労務士の失格処分を受けた者で、これらの処分を受けた日から三年を経過しない者

 税理士法(昭和二十六年法律第二百三十七号)第四十八条第一項の規定により同法第四十四条第三号に掲げる処分を受けるべきであつたことについて決定を受けた者で、当該決定を受けた日から三年を経過しないもの

 要は、行政書士として、登録できるか(積極要件)できないか(消極要件)の話。

 まずは、登録できるの方の条件。ここをお読みの皆さんが目指しているのが、第一号。通称1号登録です。このパターンが1番多い

です。2号~5号までは、他の資格保有による資格取得です。ここのポイントは2つ。

 ① ◎ 行政書士になれる資格…弁護士・弁理士・公認会計士・税理士となる資格を有する。⇐「~である」ではないことに注意

   × 行政書士になれない資格…司法書士・社労士・土地家屋調査士・公証人など

 ② 有資格者であっても、登録しなければ行政書士業務は行えない

   …いわゆる普通自動車免許を取得すると、特別に登録せずに原付の免許が得られる=乗ることができる、とは話が違います。

そして、もう1つのパターン。公務員経験者用の第六号。いわゆる6号登録。行政書士の新人の年齢層が高い理由の1つです。これを

使って定年後になられる方も結構いますからね。ただし、元公務員なら誰でも使えるものではありません。ポイントは“行政事務に相

当する事務”を担当している事。教員経験や公立病院の医師といった経験ではだめです。対して警察官・消防職員の庁内勤務は該当す

る場合が多いです。年数の20年、高卒以上で17年は覚えておいてもいいでしょう。ただ、受験されている方は、皆さん1号登録を目

指しているわけですから、直接関係しないんですけどね。

 対して、第二条の二は、第二条の一を満たしていても、このような人はなれない、という話。こちらは受験組の皆さんにも関係しま

す。何しろ、行政書士試験の受験資格には制限がないので、これを知らないと、せっかく合格したのになれないという大変残念な話に

なってしまいます。

 まず、未成年者。その年度の試験結果を見ると、最年少合格者なる項目がありますが、小学生?という年齢になってることが多いで

す。では、この小学生が開業して行政書士として仕事をできるかといえば、それは不可という事です。ただし、行政書士試験の合格=

資格取得に有効期限はないので、成年後、登録さえすればいつでも行政書士になれます(欠格条件に当てはまらなければ)。

 破産者に関しては、行政書士に限らず他の士業でも欠格要件になっています。ここでポイントは、成年被後見人・被保佐人欠格

条件にない、ということ。かつては欠格条件になっていたので、これは覚えておいて良いでしょう。

 残りについて、大雑把に言ってしまえば、何かやらかしたら3年は×ということ。“何か”は、誰にも当てはまるのは、禁錮以上。

執行猶予期間中も×。罰金はセーフ。で、公務員や士業は、さらに被処分者ではないということ。ここで、注意するポイントは、無試

験で行政書士資格者となる資格は、先述の弁護士・弁理士・公認会計士・税理士だけですが、欠格条件になる士業としての被処分者

には、司法書士・土地家屋調査士・社労士が入っているということです。

5 第三章 登録

行政書士法 第六条(抜粋)

第六条 行政書士となる資格を有する者が、行政書士となるには、行政書士名簿に、住所、氏名、生年月日、事務所の名称及び所在地その他日本行政書士会連合会の会則で定める事項の登録を受けなければならない。

第六条の二 前条第一項の規定による登録を受けようとする者は、行政書士となる資格を有することを証する書類を添えて、日本行政書士会連合会に対し、その事務所の所在地の属する都道府県の区域に設立されている行政書士会を経由して、登録の申請をしなければならない。

 日本行政書士会連合会は、前項の規定による登録の申請を受けた場合において、当該申請者が行政書士となる資格を有し、かつ、次の各号に該当しない者であると認めたときは行政書士名簿に登録し、当該申請者が行政書士となる資格を有せず、又は次の各号の一に該当する者であると認めたときは登録を拒否しなければならない。(中略)

 心身の故障により行政書士の業務を行うことができない者

 行政書士の信用又は品位を害するおそれがある者その他行政書士の職責に照らし行政書士としての適格性を欠く者

第六条の三 前条第二項の規定により登録を拒否された者は、当該処分に不服があるときは総務大臣に対して審査請求をすることができる。

 まずは、第六条に関しては、第六条の二にある、『心身の故障により行政書士の業務を行うことができない者』は日行連の登録拒否

事由になっているということ。つまり、第二条では成年被後見人・被保佐人は行政書士の欠格要件には当たらないが、第六条の方で

行政書士になれない可能性がある、ということ。一律になることができない、ではなく、審査で判断されるという話です。

 次に、不服があるときは総務大臣に審査請求をすること。行政書士に関係する行政庁として『総務大臣』が関係する場合と『都道

府県知事』が登場する場合があります。

総務大臣が関係する事柄

「行政書士試験を行う(第三条)」 ○「登録拒否時の審査請求先

「日行連の会則の認可⇐日行連に対する監督権(第十八条の五・六)」

「業務の制限の解除に関係する諸手続を行う(第十九条)」 ○「行政書士の資質の向上のための援助(第十九条の四)」

 

都道府県知事が関係する事柄

○「行政書士試験の施行に関する事務(第三条・2)」 ○「帳簿の記載事項を定める(第九条)」

○「立入検査を行う(第十三条の二十二)」 ○「行政書士(法人)に対する懲戒権(第十四条・十四条の二)」

○「行政書士会の会則の認可⇐行政書士会に対する監督権(第十六条の二・第十八条の五・六)」

  第七条では、登録の抹消について述べられてますが、こちらは第二条の二の欠格条件と、第六条の「心身の故障」により業務が

できなくなったときと話が重なっているので、詳述はしません。

6 第四章 行政書士の義務

行政書士法 第八条~第十二条(抜粋)

第八条 行政書士(行政書士の使用人である行政書士又は行政書士法人の社員若しくは使用人である行政書士(第三項において「使用人である行政書士等」という。)を除く。次項、次条、第十条の二及び第十一条において同じ。)、その業務を行うための事務所を設けなければならない

 行政書士は、前項の事務所を二以上設けてはならない

 使用人である行政書士等は、その業務を行うための事務所を設けてはならない

第九条 行政書士は、その業務に関する帳簿を備え、これに事件の名称、年月日、受けた報酬の額、依頼者の住所氏名その他都道府県知事の定める事項を記載しなければならない。

 行政書士は、前項の帳簿をその関係書類とともに帳簿閉鎖の時から二年間保存しなければならない。行政書士でなくなつたときも、また同様とする。

第十条 行政書士は、誠実にその業務を行なうとともに、行政書士の信用又は品位を害するような行為をしてはならない。

第十条の二 行政書士は、その事務所の見やすい場所に、その業務に関し受ける報酬の額を掲示しなければならない

 行政書士会及び日本行政書士会連合会は、依頼者の選択及び行政書士の業務の利便に資するため、行政書士がその業務に関し受ける報酬の額について、統計を作成し、これを公表するよう努めなければならない。

第十一条 行政書士は、正当な事由がある場合でなければ依頼を拒むことができない

第十二条 行政書士は、正当な理由がなく、その業務上取り扱つた事項について知り得た秘密を漏らしてはならない行政書士でなくなつた後も、また同様とする。

 いざ、行政書士になってから大事な話が、この第四章の話です。試験に出る出ないに関わらず、行政書士になるつもりならば、知っ

ておくべき話です。

 まずは、第8条。行政書士は、雇用の観点から見ると、以下の3パターンに分類できます。

 ① (独立した)「個人行政書士」 ② ①に雇用されている「使用人行政書士」 ③ 行政書士法人の「(法人)社員行政書士」

③に関しては、第5章の「行政書士法人」に記載されています(ここでは触れないのですが)。

 ②の「使用人行政書士」に関しては、第八条3項、第十条、第十二条(秘密保持義務)のみが関係する条文。他は関係ありません。

ポイントは第十一条は「使用人行政書士」には関係ないということ。あくまで依頼の応諾を決めるのは①の雇用主の行政書士です。

 というわけで、第四章の話は、主に個人行政書士の場合の話です。で、試験に受かり、行政書士登録をする場合、ほとんどは、この

①「(独立)個人行政書士」としてのデビューになる、と思われます。何がしかの伝手があって、先輩行政書士に雇ってもらうとか

なければ、他にやりようがないですからね。いきなり一国一城の主です。ちなみに一国二城の主は×というのが、第八条2項です。

 第九条は、扱った事件の記録はちゃんと付けなさい、それをちゃんと2年間保存しておきなさい、という話。ポイントは、行政書士

を辞めた後も2年間保存しなければいけない、という事。廃業するのだから、何でもかんでも取っておかず、当節流行の断捨離してし

まう、なんてのはもってのほかです。これ、違反すると罰則ついてますからね。

 第十条は当然の話。他の職業だって同じだ、と言われれば全くもってその通り。押さえなければならないのは第十条の二です。

いらしたお客様に、どのような案件で、報酬がいくらかわかるようにしときなさい、ということです。もっとも、行政書士の扱いうる

業務って、その気になれば数千とか万あるとか言われているので、何から何まで全部掲示するのは実際には無理です。といって、掲示

してないから、やりませんってのも第十一条との兼ね合いもありますからね。

 報酬の話でいえば、かつては、報酬基準があったようですが、結論から言うと、独禁法に引っかかるということで、今は完全自由価

格になっています。なので、一国一城の主として事務所を構えた時、大きな悩みごとの1つとして、報酬の設定があります。相場もわ

からない状況で、どのような案件にどれぐらい時間がかかるかもわからず、値段付けろっていわれてもね・・・ということで、第十条

の二の2項が設けられているわけです。実際、事案に対して、この価格帯で何人受けている、平均値、最頻値が書かれている統計が発

表されています。新人が価格設定する際に便利ではあるのですが、全国の回答数が20や30ましてや1ケタだと、平均も最頻値もない

ようなものなので、やっぱり困ってはいるのですが・・・。まあ、その辺は別の機会に書ければ。

 第十一条は「依頼応諾義務」です。原則仕事は受けなさい、という話。そんなこと言ったって、個人行政書士が多い以上、1人でや

れる仕事量には限度があるだろうし、1人でやっている以上体調崩したら…と、なりますよね。そこでポイントは「正当な事由」とは

何か、という事です。

 考えられるところをいくつか挙げてみます。

 ① 他の士業の独占業務にあたる・・・これは紛れもない正当な事由。というより、絶対に断る案件。ただし、紹介はした方が◎

 ② 依頼人が犯罪・不法行為を目的としている事が明らかな場合・・・これも正当な事由。どころか、こっちも幇助になってしまう

 ③ 病気や事故の場合・・・これは仕方がないが、余りに長期間になりそうだと、登録抹消の自由になり得る(第七条2項)

 ④ 既に受諾している案件との関係で、すぐに着手できない場合・・・依頼者が待てないならば正当な事由

  ※ただし、空くまで待ちますよ、と言われれば正当な事由になりません。また、受けられない場合は誰かを紹介できるならした方

  がいいでしょう。

 第十二条はいわゆる「守秘義務」。ポイントは、辞めた後も守秘義務がある、ということ。

 また、「正当な理由」とは、・本人の承諾 ・その事項に関して法令の規定で義務がある ことなどです。

 さて、ここまで「行政書士の義務」について述べてきましたが、この中で、罰則付きの義務3つあります。これは別途頭に入れて

おいてもいいかと思います(罰則は第九章・第二十二条,第二十三条)。

 ① 帳簿記帳事務(第九条)  ② 依頼に応じる義務(第十一条)  ③ 守秘義務(第十二条)

7 第六章・監督  第七章・行政書士会及び日本行政書士会連合会

 行政書士会や日本行政書士会連合会(日行連)という組織に対する条文というのは、業務に直接関係しない話なので、いきなりここ

を突っ込んでくることはない、と思われるので、この辺はさらっと。

行政書士法 第六章 監督(抜粋)

第十三条の二十二 都道府県知事は、必要があると認めるときは、日没から日出までの時間を除き、当該職員に行政書士又は行政書士法人の事務所に立ち入り、その業務に関する帳簿及び関係書類(これらの作成又は保存に代えて電磁的記録の作成又は保存がされている場合における当該電磁的記録を含む。)を検査させることができる

 前項の場合においては、都道府県知事は、当該職員にその身分を証明する証票を携帯させなければならない。

 当該職員は、第一項の立入検査をする場合においては、その身分を証明する証票を関係者に呈示しなければならない。

 第一項の規定による立入検査の権限は、犯罪捜査のために認められたものと解釈してはならない。

第十四条 行政書士が、この法律若しくはこれに基づく命令、規則その他都道府県知事の処分に違反したとき又は行政書士たるにふさわしくない重大な非行があつたときは、都道府県知事は、当該行政書士に対し、次に掲げる処分をすることができる

 戒告

 二年以内の業務の停止

 業務の禁止

第十四条の三 何人も、行政書士又は行政書士法人について第十四条又は前条第一項若しくは第二項に該当する事実があると思料するときは、当該行政書士又は当該行政書士法人の事務所の所在地を管轄する都道府県知事に対し、当該事実を通知し、適当な措置をとることを求めることができる

 まずは、第六章「監督」から。第三章「登録」でも触れましたが、立入検査・処分権者は都道府県知事です。また、第十四条の三は

一般国民が行政書士(法人)に懲戒請求をすることができることを法定化したものであり、請求先が都道府県知事であることを明記し

たものです。

行政書士法 第七章 行政書士会及び日本行政書士会連合会(抜粋)

第十六条の五 行政書士は、第六条の二第二項の規定による登録を受けた時に当然、その事務所の所在地の属する都道府県の区域に設立されている行政書士会の会員となる

 行政書士は、他の都道府県の区域内に事務所を移転したときは、その移転があつたときに、当然、従前の行政書士会を退会し、当該都道府県の区域に設立されている行政書士会の会員となる。

 行政書士は、第七条第一項各号の一に該当するに至つたとき又は同条第二項の規定により登録を抹消されたときは、その時に、当然、その所属する行政書士会を退会する

第十七条 行政書士会は、毎年一回、会員に関し総務省令で定める事項を都道府県知事に報告しなければならない。

 行政書士会は会員が、この法律又はこの法律に基づく命令、規則その他都道府県知事の処分に違反したと認めるときは、その旨を都道府県知事に報告しなければならない

第十七条の二 行政書士会は、会員がこの法律又はこの法律に基づく命令、規則その他都道府県知事の処分に違反するおそれがあると認めるときは、会則の定めるところにより、当該会員に対して注意を促し、又は必要な措置を講ずべきことを勧告することができる

第十八条の六 都道府県知事は行政書士会につき、総務大臣は日本行政書士会連合会につき、必要があると認めるときは、報告を求め、又はその行なう業務について勧告することができる。

 次に第七章。まず、第十六条の五から。ポイントは自動的に『行政書士登録事務所所在地の行政書士会への入会』ということ。

その裏返しで『登録抹消所属行政書士会の退会』でもあります。また、都道府県を越える形で事務所を移転すると『元の行政書士会

の退会→移転先の行政書士会への入会』が自動的に行われます。この際、移転先の行政書士会への入会金が必要になります。

 第十七条は第2項と第十七条の二でワンセット。処分を行うのは都道府県知事であって、行政書士会が行うのは都道府県知事への報

告と、当該行政書士への“勧告”であることを押さえておきましょう。

 第十八条の六は、業務には直接関係しませんが、第三章「登録」でも触れた、総務大臣が関係する事項と都道府県知事が関係する事

項の話。テストのための問題、という意味では「以下の選択肢のうち、都道府県知事が行わないことは?」のような問題用の話です。

8 第八章 雑則

 長くなりましたが、これが最後(罰則は触れません)。

行政書士法 第八章 雑則(抜粋)

第十九条 行政書士又は行政書士法人でない者は業として第一条の二に規定する業務を行うことができない。ただし、他の法律に別段の定めがある場合及び定型的かつ容易に行えるものとして総務省令で定める手続について、当該手続に関し相当の経験又は能力を有する者として総務省令で定める者が電磁的記録を作成する場合はこの限りでない

第十九条の二 行政書士でない者は行政書士又はこれと紛らわしい名称を用いてはならない

第十九条の三 行政書士又は行政書士法人の使用人その他の従業者は、正当な理由がなく、その業務上取り扱つた事項について知り得た秘密を漏らしてはならない。行政書士又は行政書士法人の使用人その他の従業者でなくなつた後も、また同様とする。

第二十条 この法律に定めるもののほか、行政書士又は行政書士法人の業務執行、行政書士会及び日本行政書士会連合会に関し必要な事項は総務省令で定める

 第十九条に関しては、重要なポイントがいくつかあるので、しっかり押さえておきましょう

 まずは、この条文があることで、第一条の二『官公署への提出書類』『権利義務又は事実証明に関する書類』の作成が行政書士

の独占業務であることが担保されている。さらに、第十九条の二で“行政書士”は【名称独占】であることも法定されています。

 その一方で、第十九条では独占業務の例外が記されています。『他の法律に別段の定めがある場合』とは、他士業との共同法定業務

の話。この辺は前回分をご覧ください。

⇒ 行政書士試験範囲変更の話(3 行政書士法編中編)

もう1つの例外が、『定型的かつ容易に行えるものとして総務省令で定める手続』。まず、この手続は“電磁的記録”に限定されている

ことは押さえておきましょう。具体例としては、自動車に関する手続きが昨今、日本自動車販売協会連合会や、日本自動車整備振興会

連合会に認められています。

 第十九条の三は話が全く変わって、守秘義務は行政書士本人だけでなく、事務所の使用人・従業員にも適用されるという話。辞めた

後も適用されるのも行政書士と同じです。

 最後に挙げた第二十条については、行政書士会への監督権は都道府県知事にあるのですが、行政書士法にない必要な事柄は総務省令

で定められるということ。当然と言えば当然の話。行政書士会に対し各都道府県が条例であれこれ言ったら、依頼者側からしたら、う

ちの県の行政書士は、この事案は条例でやれないことになってるけど、隣の県ならOKだからそっちにしよう、なんて話になります。

念のため、行政書士は各都道府県の行政書士会に所属していますが、その都道府県でしか仕事ができないということはありません。日

本中どこの仕事でも受けられます。あくまで事務所をその都道府県に置く、というだけです。

 以上、話も長く、完結までの期間も長くなりましたが、行政書士法編の話はここまでです。本当にこのペースだと、試験まで間に合

うのか、という感じになってきたので、どうにかペースアップを図りたいのですが…。次回は戸籍法の話になります。

 長くなりましたが、最後までお読みいただきありがとうございました。それでは、また次回。


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