行政書士試験範囲変更の話(5・戸籍法編)


 行政書士試験の範囲変更の話を続けてますが、前回やっとこさ、行政書士法の話を終えて、今回は戸籍法の話。「行政書士の業務に

関し必要な基礎知識」に含まれる範囲の例として、具体的に挙げられている法令ですから、触れないわけにはいかないでしょう。

総務省「行政書士試験の施行に関する定め」の一部改正について 概要

 ここで、問題となるのは、『行政書士試験において問うべき「行政書士の業務に関し必要な知識及び能力」』とは、何を指すのか

ということ。

 行政書士の業務の1分野には『相続』があります。この際に被相続人の戸籍から相続人を特定していく、ということを行うのですが

ここで、戸籍を読み解くのは基本中の基本。その意味では、戸籍法について知っておくのは、試験どうこうでなく、なった後を考えれ

ば無駄ではありません。対策として、出生・認知・養子縁組・婚姻・離婚・後見・死亡・推定相続人の廃除とさらうのは、民法との

兼ね合いも含めて押さえるのにか越したことはありません。

 しかし、まず、行政書士としてイロハのイとして押さえたいのは、第十条。

戸籍法 第十条

第十条 戸籍に記載されている者(その戸籍から除かれた者(その者に係る全部の記載が市町村長の過誤によつてされたものであつて、当該記載が第二十四条第二項の規定によつて訂正された場合におけるその者を除く。)を含む。)又はその配偶者直系尊属若しくは直系卑属はその戸籍の謄本若しくは抄本又は戸籍に記載した事項に関する証明書(以下「戸籍謄本等」という。)の交付の請求をすることができる
② 市町村長は、前項の請求が不当な目的によることが明らかなときは、これを拒むことができる。
③ 第一項の請求をしようとする者は郵便その他の法務省令で定める方法により戸籍謄本等の送付を求めることができる

 

戸籍法 第十条の二

第十条の二 前条第一項に規定する者以外の者は次の各号に掲げる場合に限り戸籍謄本等の交付の請求をすることができる。この場合において、当該請求をする者は、それぞれ当該各号に定める事項を明らかにしてこれをしなければならない。


一 自己の権利を行使し又は自己の義務を履行するために戸籍の記載事項を確認する必要がある場合 権利又は義務の発生原因及び内容並びに当該権利を行使し、又は当該義務を履行するために戸籍の記載事項の確認を必要とする理由


二 国又は地方公共団体の機関に提出する必要がある場合 戸籍謄本等を提出すべき国又は地方公共団体の機関及び当該機関への提出を必要とする理由


三 前二号に掲げる場合のほか、戸籍の記載事項を利用する正当な理由がある場合 戸籍の記載事項の利用の目的及び方法並びにその利用を必要とする事由


② 前項の規定にかかわらず又は地方公共団体の機関法令の定める事務を遂行するために必要がある場合には、戸籍謄本等の交付の請求をすることができる。この場合において、当該請求の任に当たる権限を有する職員は、その官職、当該事務の種類及び根拠となる法令の条項並びに戸籍の記載事項の利用の目的を明らかにしてこれをしなければならない。


③ 第一項の規定にかかわらず弁護士(弁護士法人及び弁護士・外国法事務弁護士共同法人を含む。次項において同じ。)、司法書士(司法書士法人を含む。次項において同じ。)、土地家屋調査士(土地家屋調査士法人を含む。次項において同じ。)、税理士(税理士法人を含む。次項において同じ。)、社会保険労務士(社会保険労務士法人を含む。次項において同じ。)、弁理士(弁理士法人を含む。次項において同じ。)、海事代理士又は行政書士(行政書士法人を含む。)は、受任している事件又は事務に関する業務を遂行するために必要がある場合には、戸籍謄本等の交付の請求をすることができる。この場合において、当該請求をする者は、その有する資格、当該業務の種類、当該事件又は事務の依頼者の氏名又は名称及び当該依頼者についての第一項各号に定める事項を明らかにしてこれをしなければならない。


④ 第一項及び前項の規定にかかわらず弁護士司法書士土地家屋調査士税理士社会保険労務士又は弁理士は、受任している事件について次に掲げる業務を遂行するために必要がある場合には戸籍謄本等の交付の請求をすることができる。この場合において、当該請求をする者は、その有する資格、当該事件の種類、その業務として代理し又は代理しようとする手続及び戸籍の記載事項の利用の目的を明らかにしてこれをしなければならない。

以下 省略

1 戸籍請求できる人(原則)

 まず、戸籍法第十条を読めば、ある人の戸籍謄本等の請求をできる人の範囲は

 1⃣ 戸籍に記載されている者(本人)

 2⃣ その(戸籍に記載されている者の)配偶者

 3⃣ (戸籍に記載されている者の)直系尊属又は直系卑属父母・祖父母など、または、子・孫など

 これらの人に関しては、請求の目的が不当な目的でない限り認められます(第十条第2項)。

 ですので、同じ戸籍に記載されていない兄弟姉妹間の請求はできません

 ちなみに、親子間・兄弟姉妹間であっても、同じ戸籍に記載されている場合は、(親子の場合は)3⃣ではなく1⃣としての請求になり

ます。

 さらに、この令和6年3月から始まった、『戸籍証明書等の広域交付』の請求可能な範囲も、この第十条第1項と同じです。

戸籍証明書等の広域交付

 従来、本籍地がある(あった)市区町村でなければ交付されなかった戸籍証明書などが、本籍地以外の市区町村の窓口でま

とめて請求できるようになりました(コンピューター化されていないもの、一部事項証明書、個人事項証明書は除く)。

 請求できる人は本人・配偶者・直系尊属・直系卑属(第十条第1項と同じ)です。こちらも、兄弟姉妹間での請求は×

です。詳細は以下で確認できます。

法務省 戸籍法の一部を改正する法律について(令和6年3月1日施行)

 これによって、相続などで戸籍を集めなければいけない場合、相続人が配偶者と子供(孫)しかいない場合、配偶者が広域

交付を利用すると、必要な戸籍が1か所で集められるわけです。

 しかし、戸籍法第十条第3項では、戸籍謄本等は郵便による請求が認められているのに対し、広域交付では窓口請求のみ

郵送も・代理人による請求も認められていません。我々士業が委任状をもらっても、職務上請求書を使っても×です。

 なので、被相続人が市区町村をまたがって何度も本籍地を移していた場合、相続人であるお子様が離れた所に本籍を移され

ている場合などは、被相続人の配偶者が広域交付を利用して戸籍請求した方が、我々士業が集めるより早い、ということにな

ります。

2 戸籍請求できる人(例外)

 第十条の二第1項にあたる場合=『第三者による請求』です。では、それぞれの具体的な例はどんな場合でしょう。

一 自己の権利を行使し又は自己の義務を履行するために戸籍の記載事項を確認する必要がある場合

 ・相続において、相続人が被相続人の兄弟姉妹しかおらず、この兄弟姉妹が被相続人の相続人を特定するために請求する場合

 ・生命保険会社が保険金受取人である法定相続人を特定するために請求する場合

 ・債権者による死亡債務者の相続人を特定するため

⇒ “相続人の特定”というのが典型例です。

二 国又は地方公共団体の機関に提出する必要がある場合

 ・相続人が被相続人の兄弟姉妹しかおらず、この兄弟姉妹が被相続人の土地を承継する際、相続登記の添付書類として必要な場合

 ・裁判所に申立てをする際の添付資料として必要な場合

三 前二号に掲げる場合のほか、戸籍の記載事項を利用する正当な理由がある場合

 ⇒ 『第三者による請求』が認められる場合は、一・二に包摂されているので、三の理由で認められるのは極めて限定的です。

3 戸籍請求できる人(職務上請求)

 第十条の二第3項の話であり、今回のメインの話です。

 弁護士・司法書士・土地家屋調査士・税理士・社会保険労務士・弁理士・海事代理士・行政書士は、第十条の二第1項(前章の内

容)によらず、受任している事件又は事務に関する業務を遂行するために必要がある場合は、戸籍謄本等の交付の請求をすることがで

きます。これを“職務上請求”といいます。ちなみに住民票の写し・住民票記載事項証明書に関しては、住民基本台帳法によります。

これについては、住民基本台帳法編で触れます。

 では、実際に職務上請求をするにあたって何が必要かというと、職務上請求書と顔写真の入った資格者証(行政書士ならば行政書士

証票)が原則必要になります。で、問題となるのはこの職務上請求書。

 調査会社の依頼に応じて、本来使用できないところで職務上請求書を不正利用して戸籍・住民票を手に入れる、私的な理由で手に入

れるなどの不祥事が、残念なことに定期的に起こっています。大きな問題が起こる度に、使用の厳格化が図られているのですが、未だ

無くならないのが現状です。

 なぜ、いわゆるこの八士業に、職務上請求が認められているかというと、あくまでも、行政書士法の文言を借りると“行政に関する

手続の円滑な実施に寄与するとともに国民の利便に資し、もつて国民の権利利益の実現に資する”ため(第1条)でしょう。もっと簡単に

言えば、そもそも自分であれこれ書類を集めに回るのが大変だからプロに依頼するわけです。委任状を取ってしまえば同じことができ

ますが、例えば相続人調査で次々相続人が判明したときに、一々その人の委任状を取って戸籍を集めていたら、かなりの時間がかかって

しまいます。このような際、職務上請求によって速やかに戸籍を集められる方が、国民の利便に資す、と言えるでしょう。

 そういう意味では、行政書士会側からの事情で言えば、我々行政書士が、何を根拠に職務上請求できるか、ということは出生以降の

届出の話より、いの一番に問いたい論点のはずなので、長々と扱ってみました。

 さて、このように書くと、相続関係を扱わなければ、職務上請求書は使用しないのか、と言えばそうではありません。許認可を扱って

いても“住民票”が必要な場面がありますし、自動車登録でも、車検証と印鑑証明書の住所が異なっているので住民票の写しが必要という

ケースもあります。

 本欄は“戸籍法”の話なので、戸籍関係の取得の話をメインに書いているので、この辺は住民基本台帳編で触れます。

 最後に、第十条の二・3項と4項の文言の差について。第3項では受任している事件又は事務”となっているのに対し、第4項では

受任している事件”となっています。この違いはどういうことか。

 ポイントは、第3項では“海事代理士と行政書士”が入っていますが、第4項では入っていません。司法書士・税理士などは条件付きです

が、紛争性のある事案=事件を扱うことができます。しかし、海事代理士と行政書士は紛争性のある事案を扱えません。扱うのは“事務”だ

けです。一応こちらでも触れています。

⇒ 行政書士試験範囲変更の話(2・行政書士法前編)

さらに、こちらも。

海事代理士法 第一条

第一条 海事代理士は、他人の委託により、別表第一に定める行政機関に対し、別表第二に定める法令の規定に基づく申請、届出、登記その他の手続をし、及びこれらの手続に関し書類(その作成に代えて電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によつては認識することができない方式で作られる記録であつて、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。)を作成する場合における当該電磁的記録を含む。)の作成をすることを業とする

 細かい話ですが、文言の違いについても、行政書士の扱う業務の範囲として知っておいてもいいかと思い、取り上げておきました。

 さすがに、第十条だけで終わりでは酷すぎるので、その他については次回触れたいと思います。

というわけで、今回はここまでです。最後までお読みいただきありがとうございました。それでは、また次回。


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