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前回から、今年度より行政書士試験の出題範囲に変更がある、という話を始めましたが、前回の概要に続けて今回からは出題が
予想される具体的な法令について。概要編でも触れたとおり、総務省から発表されている『「行政書士試験の施行に関する定め」の
一部改正について』内では、新たに出題範囲となる「行政書士法等行政書士業務と密接に関連する諸法令」の説明として、”行政書士
法、戸籍法、住民基本台帳法等行政書士の業務に必要な諸法令”という表現になっています。“等”が何を示すかはわかりませんが、まず
は、ここに挙げられている3つの法令に関しては考えておく必要があるでしょう。
ちなみに前回の話はこちら ⇒行政書士試験範囲変更の話 (1・概要編)
というわけで今回は行政書士法の話から。条文自体は25(第5条は削除)。
もっとも「第〇条の□」というのが多々あるので、実質的な数はもっと多くなります。ただ、全部覚えなきゃならんか、と言えば
そうではないわけで・・・。「第一章・総則」(第一条・第二条)は頭に叩き込むことは必須ですが、「第二章・行政書士試験」
(第三条・第四条)などは出ないでしょう。試験受けるなら知っとけ!という突っ込みもあるかもしれませんが、“行政書士業務と
密接に関連”しませんからね。「第七章・行政書士会・日本行政書士会連合会」(第十五条~第十八条)に関しても、第十六条の五
『行政書士の入会及び退会』以外は、行政書士個人に関係しない話です。「第九章・罰則」(第二十条の二~)も、何をすれば
(しなければ)罰則の対象になるかは知っておく必要があるでしょうが、どんな罰則かまでは覚えさせないでしょう。
というわけで、完全なる筆者の主観による重要度をまとめると以下。
重要度 | 内容 | 注 |
◎ | 第1章(総則)・第4章(行政書士の業務)・第8章(雑則) | |
〇 | 第3章(登録)・第6章(監督) | |
△ | 第5章(行政書士法人) | |
× | 第2章(行政書士試験)・第9章(罰則) ・第7章(行政書士会及び日本行政書士会連合会) | 第16条の5(行政書士の入会・退会) は抑えておいた方が良い |
では、以下で具体的に見ていきましょう。
1.第一条 目的
まず、第1章は必須。
第1条(目的)「この法律は、行政書士の制度を定め、その業務の適正を図ることにより、行政に関する手続の円滑な実施に寄与
するとともに国民の利便に資し、もつて国民の権利利益の実現に資することを目的とする。」
この“国民の権利利益の実現に資すること”は、今回の改正の根幹部分なので、ここからどのような問題を作り得るか、という視点抜き
に覚えておきましょう。(今回の改正=R3.6月施行)
※ ついでのはなし
もともとの行政書士法には【目的】の規定はありませんでした。ちなみに、弁護士法・税理士法には“使命”条項、司法書士法・社労士法には“目的”規定があります。
2.第一条の二・三 ~ 独占業務と業際問題
Ⅰ 独占業務と非独占業務
そして、重要なのは次の第一条の二と第一条の三
第一条の二 行政書士は、他人の依頼を受け報酬を得て、官公署に提出する書類(その作成に代えて電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によつては認識することができない方式で作られる記録であつて、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)を作成する場合における当該電磁的記録を含む。以下この条及び次条において同じ。)その他権利義務又は事実証明に関する書類(実地調査に基づく図面類を含む。)を作成することを業とする。
2 行政書士は、前項の書類の作成であつても、その業務を行うことが他の法律において制限されているものについては、業務を行うことができない。
第一条の三 行政書士は、前条に規定する業務のほか、他人の依頼を受け報酬を得て、次に掲げる事務を業とすることができる。ただし、他の法律においてその業務を行うことが制限されている事項については、この限りでない。
一 前条の規定により行政書士が作成することができる官公署に提出する書類を官公署に提出する手続及び当該官公署に提出する書類に係る許認可等(行政手続法(平成五年法律第八十八号)第二条第三号に規定する許認可等及び当該書類の受理をいう。次号において同じ。)に関して行われる聴聞又は弁明の機会の付与の手続その他の意見陳述のための手続において当該官公署に対してする行為(弁護士法(昭和二十四年法律第二百五号)第七十二条に規定する法律事件に関する法律事務に該当するものを除く。)について代理すること。
二 前条の規定により行政書士が作成した官公署に提出する書類に係る許認可等に関する審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立ての手続について代理し、及びその手続について官公署に提出する書類を作成すること。
三 前条の規定により行政書士が作成することができる契約その他に関する書類を代理人として作成すること。
四 前条の規定により行政書士が作成することができる書類の作成について相談に応ずること。
2 前項第二号に掲げる業務は、当該業務について日本行政書士会連合会がその会則で定めるところにより実施する研修の課程を修了した行政書士(以下「特定行政書士」という。)に限り、行うことができる。
そもそも『行政書士の業務』とは何なのか。その答えがこの第一条の二と第一条の三から読み解けます。ただ、ここに深入りしてい
くと書いても書いても終わりを迎えられなくなるので、問題になりそうな話を中心に。
第一条の二と第一条の三を読むと、【行政書士の業】が何なのかが書かれていることがわかります。その業が法律によって定められ
ているので、これは行政書士の法定業務ということになります。さらに
第十九条 行政書士又は行政書士法人でない者は、業として第一条の二に規定する業務を行うことができない。ただし、他の法律に別段の定めがある場合及び定型的かつ容易に行えるものとして総務省令で定める手続について、当該手続に関し相当の経験又は能力を有する者として総務省令で定める者が電磁的記録を作成する場合は、この限りでない。
と、定められています。つまり、第一条の二の業務は、行政書士ではない者が業として行うと法律違反ということになります。見方
を変えれば、この仕事は(本人以外が行う場合)行政書士しかできないわけですから、官公署に提出する書類・その他権利義務又は
事実証明に関する書類を作成したい際に、自分でできないとなった時に、行政書士が誰も引き受けなければ立ち往生となってしまいま
す。これでは“国民の権利利益の実現に資すること”はできません。ですから「業とする」なのです。
この、第一条の二の業務は【行政書士の独占業務】ということになります。
対して第一条の三の方は第十九条のような規定はありません。つまり、こちらは法定業務ではありますが、独占業務ではありませ
ん。ということは、行政書士でない個人・法人などが業として行ってもよいことになります。ですので、第一条の二と異なり“業とす
ることができる”となっていると言えます。
つまり、第一条の三の業務は、法定業務ではありますが、【非独占業務】ということになります。
『業とする』とは
法律を読むと、よく条文中に『業とする』という表現を目にすることがあるかと思います。では、この『業とする』という
のは、一体どういう意味なのでしょうか。これに関しては、一般的な意味と法律的解釈が一致するわけではないうえに、法律
によっても微妙に違ってしまうので、こうだ、とは断言できないのですが、行政書士法上で考えれば
①継続・反復的に ②他人からの依頼に対し ③明示・黙示問わず報酬を得て 業務を行うこと
と、言ったところになります。
②に関しては、自分で行う場合は問題にならない、という事です。第十九条に『業として』の一文が無ければ「自分でやる
場合はどうなの?」という疑問が出るでしょう。
問題は①と③。”継続・反復的に”、ということは一回だけならいいのか、という話になります。これに関しては、行為と
して何度もやっている、ということだけでなく、一度だけでも“継続・反復的に”行おうという意思があれば『業として』行っ
ている、という解釈になっています。もっとも何をもって“意思がある”ということになるか、が問題になるのですが・・・。
③明示・黙示問わず報酬を得て、とは何か。要はお金貰ってやっちゃダメ、ということですが、例えば、何かの事業を
するために、建物を作る・借りるなどする際に「ウチと契約してくれたら、許認可の書類はウチの方でタダでやるから…」
というような場合、官公署に提出する書類を報酬を得ずにやっている、とはなりません。
この2つの条文を読むと、このようなことがわかります。
官公署に提出する書類の“作成”は、行政書士の独占業務なのですが、その“提出”は独占業務ではありません。つまり、許認可の受付
窓口に、行政書士ではない人物が現れて書類を出しているのは違法ではないわけです。まあ、持っていくだけなら行政手続きに通じて
いる必要も専門性も不要ですよね。
Ⅱ 業際問題
この話は“行政書士業務”を行う上で避けて通れない、どころかここを間違えると資格そのものにかかわる話です。しかし、この話は
深入りすればするほど、行政書士法から離れてしまいます。その原因は、そもそもの行政書士の独占業務を定める建付けにあります。
改めて、第一条の二を見てみましょう。
第一条の二 行政書士は、他人の依頼を受け報酬を得て、官公署に提出する書類(その作成に代えて電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によつては認識することができない方式で作られる記録であつて、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)を作成する場合における当該電磁的記録を含む。以下この条及び次条において同じ。)その他権利義務又は事実証明に関する書類(実地調査に基づく図面類を含む。)を作成することを業とする。
2 行政書士は、前項の書類の作成であつても、その業務を行うことが他の法律において制限されているものについては、業務を行うことができない。
行政書士の独占業務は、①官公署に提出する書類 ②権利義務に関する書類 ③事実証明に関する書類 の作成 であることがわか
ります(正確にはこの業務が独占であることは第十九条とのセットで言えるわけですが)。これで終わっていれば話が早いのですが
問題はそのあとの「その業務を行うことが他の法律において制限されているものについては、業務を行うことができない。」の一文。
つまり、独占業務①~③にあたる書類の作成であってもできないことがあるわけです。では、何ができないのかとなると、“他の法
律において制限されているもの”としか書かれていないので、行政書士法だけを読んでもわからないというわけです。
では、これを試験の出題の話に落とし込むと、「行政書士法等行政書士業務と密接に関連する諸法令」の“等”には、どの法令が入る
のか、が問題になります。先に挙げた【行政書士法】【戸籍法】【住民基本台帳法】の3つに絞って良いのであれば、この話はここで
終わりです。何せ他の法律を引っ張り出さなきゃできないことがわからないのですから。
しかし、何がやって良くて、何が独占業務で、何がやってはダメなのかは、“業務と密接に関連”するに決まっているのですから、ま
あ触れないわけにはいかないのかな、ということで一応突っ込んで話をしておきます(初年度から“等”に行くか、という気もします
が)。
業際問題に関しては、当欄の1回目でも触れていたのですが、それはあくまでも士業とは縁のない方が、何かあった時に数多いる
○○士のどれに頼めばいいかという目安の話。専門家になるための試験対策としては足りないので改めて。
ポイントは“他の法律において制限”なので、その部分をピックアップしていきます。
〇 弁護士法
(非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止)
第七十二条 弁護士又は弁護士法人ではない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他に法律に別段の定めがある場合はこの限りではない。
とにかく、弁護士法ではこの1点。下手打ったときに弁護士から抗議されるのは、この七十二条に違反してる、という話。キーワー
ドは“事件”。原則“事件”を扱うのは弁護士だけ。我々行政書士が“事件”に代理人として関与することはありません。ここを簡単に言う
と、もめ事には関われない、という言い方になるわけです。
ただし、交通事故で示談が成立した場合の示談書や債権者・債務者間で和解が成立している場合の和解書のように、既に当事者間で
話が決まっていることを書面に落とし込むような書類の作成は可能です(権利義務に関する書類の作成になります)。
※ もちろん示談・和解の交渉には携われません。 ※ 裁判所に提出する書類の場合は作成できません。
この、弁護士法第七十二条に関しては、行政書士法内にも名前が登場しています。第一条の三の中の括弧書きの中に出てますね。
三の方なので、独占業務にまつわる話ではありませんが、行政書士法に登場しているので“密接に関連する”扱いになる可能性がある
という判断になるのかどうか…。
弁護士以外は“事件”を扱えないのか
本文中では「原則“事件”を扱うのは弁護士だけ」と書きましたが、他の士業では扱えないのか、というとそうではありませ
ん。こちらの条文でも意味ありげに「この法律又は他に法律に別段の定めがある場合はこの限りではない」と書かれてありま
すね。ご存知の方が多そうなのが、司法書士が簡易裁判所において取り扱うことができる民事事件(訴訟の目的となる物の価
額が140万円を超えない請求事件)等について,代理業務を行うことができる(簡裁訴訟代理等関係業務)という話。ただ
し、どの司法書士でもできるわけではなく、認定司法書士だけ。
また、「税理士は租税に関する事項について、裁判所において、補佐人として、弁護士である訴訟代理人とともに出頭し、
陳述することができる」(税理士法第二条の二)。弁理士は特許等の出願・登録の事項に関して、「裁判所において、補佐人
として、当事者又は訴訟代理人とともに出頭し、陳述又は尋問をすることができる」(弁理士法第五条)。弁理士に関しては
訴訟代理人になることができる範囲もあります(同第六条)。
社会保険労務士にも、税理士と同様の「裁判所において、補佐人として、弁護士である訴訟代理人とともに出頭し、陳述す
ることができる」ことが明記されている。また、弁理士・社労士・土地家屋調査士には、裁判外の“紛争”解決手続における
当事者の代理行為を行うことができる(土地家屋調査士に関してはちゃんと触れるとややこしくなるのですが、そこはこの話
から外れていくのでこの辺でご勘弁を…)。この辺が他に法律に別段の定めがある場合になるわけです。
ただし、税理士以外は誰でもその士業の登録者であればできるわけではなく、認定○○なり特定○○にならなければできま
せん。そういう意味では、行政書士にも特定行政書士というのがあるのですが…。ここは、今回の試験範囲変更の肝になる
部分でもあるので、しっかり章立てして触れていきます。
この先、他士業法にも触れなければいけないのですが、長くなりそうなので、続きは次回とさせていただきます。そちらで特定行政
書士についても扱う予定です。最後までお読みいただきありがとうございました。それではまた次回。