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前回に続いて戸籍法の話なのですが、何せ前回は第十条しか触れずに終わったので、今回で残り全部を…という話です。
さて、内容を行政書士として使うであろう条文をメインにするのか、問題にしたくなるような条文をメインにするのか、ここが悩み所。
1 概論~民法と戸籍法
民法…特に第4編『親族』の条文を読むと、そこかしこに“戸籍法の定めるところにより届け出る”ことにより効力を生じる、というよう
な条文が見えます。つまり、民法で定められていることを手続きとしてどのように行うのか、その辺を定めたのが戸籍法、という言い方が
できます。行政書士試験でも民法の問題が、択一で9問、記述で2問出題されますが、第4編『親族』・第5編『相続』に関しては、択一
で1問、記述で1問出るかどうかです。しかし、行政書士として相続の実務を行う上では、第2編『物権』・第3編『債権』と、第4編
『親族』・第5編『相続』では、まず、後者の知識が主で、前者が従の場合が多いはずです。『物権・債権』は相続財産の性質次第で関係
するか、しないか変わりますが、『相続』は相続が発生している以上は関係してきます。
そもそも、“相続”は死亡によって開始する(民法第882条)わけですが、その死亡の届出については、戸籍法に定めがあります。民法で
は、この後相続人についての条文が続くのですが、その相続人を確定させる作業は、戸籍の調査によって行うことになります。つまり戸籍
謄本などに記されていることが読み取れなければ、話にならないわけです。
また、民法の『親族』には、婚姻(離婚・認知含む)・養子(離縁含む)・親権の項目がありますが、戸籍法にも同様の章立てがされて
います。そもそも、民法の条文内に“戸籍法の定めるところにより”という語句が登場しています(739条「婚姻の届出」,767条2項「離
婚による復氏等」,781条「認知の方式」など、さらに764条「協議上の離婚」などでも739条が準用されている)。
逆に、戸籍法側から見ても“民法○○条の規定よって”という語句が登場しています。
例えば、戸籍法62条は「民法第七百八十九条第二項の規定によつて嫡出子となるべき者について、父母が嫡出子出生の届出をしたとき
は、その届出は、認知の届出の効力を有する。」と、なっています。では、その民法789条2項は「婚姻中父母が認知した子は、その認知
の時から、嫡出子の身分を取得する。」です。準正についての話です。また、民法の方で“認知の方式”についてみると、781条に「認知
は、戸籍法の定めるところにより届け出ることによってする。」となっています。このあたりからも、『親族』『相続』では、実務面から
見ると、民法と戸籍法は表裏一体の関係であることがわかります(どっちが表かというツッコミは無しで…)。
つまり、民法の範囲でも、出題的には手薄になっている(しかし、実務的には重要な)分野の内容を、戸籍法で出題することで補うこと
ができるので、このような意図で出題する事も考えておく必要があるかもしれません。
2 実務面を考えた上での出題
では、どのような出題をしてくるか、となるのですが、この分野を追加した当初の目的を考えれば、実務をやる上で生きる知識がいいよ
ね、となるはずです。しかし、少しでも正解率を低くしようという悪意を持って出題すれば、そんなのいつ使う、という問題になる可能性
もゼロではありません。
というわけで、まずは、真っ当な方の話から。
近々のトピックとしては、やはり令和6年3月1日から施行された「戸籍法の一部を改正する法律について」の内容。ちなみに前回触れ
た戸籍の広域交付制度も、この改正の一部です。
1.戸籍の広域交付制度
本籍地以外の市区町村の窓口で、戸籍謄本等の請求ができる。また、現在までの(電子化されたもの以降)戸籍謄本をまとめて請求できる。
また、本人以外に配偶者・直系親族(親・子・孫など)の請求もできる。
※ 兄弟姉妹・職務上請求できる士業などは不可(委任状をもらっていても不可…もちろん当該市区町村分の請求は可)
郵送も不可
前回触れた分はこちら⇒ 行政書士試験範囲変更の話 5(戸籍法前編)
2.戸籍届出時における戸籍証明書等の添付負担の軽減
本籍地以外の市区町村において、戸籍の届出をする際に戸籍証明書等の添付が原則不要になる。
例としては、旅行先において婚姻届を提出する際、戸籍証明書を用意しなくてもよい。その他養子縁組届などでも不要。
3.マイナンバー制度の活用による戸籍証明書等の添付省略
各種の社会保障手続の際に記載しているマイナンバーを利用することにより、窓口機関において、親子関係や婚姻関係等を確認
することが可能となるため、従来これらの手続で提出が必要だった戸籍証明書等の添付が省略できる。
※ 社会保障手続の場合が多いので、行政書士より社会保険労務士の方が恩恵にあずかる機会は多いでしょう。
例 ・ 児童扶養手当の支給事務における続柄・死亡の事実・婚姻歴の確認
・ 国民年金の第3号被保険者(被保険者に扶養されている主婦など)の資格取得事務における婚姻歴の確認
・ 健康保険の被扶養者の認定事務における続柄の確認
・ 奨学金の返還免除事務における死亡の事実の確認(これは社労士案件ではない)
次に、戸籍関係は”届出”が必要ですが、戸籍法では、いつでも好きなときに届け出ればよいわけではなく、期限が設けられています。
その期限は、7日以内、10日以内、14日以内、1か月以内、3か月以内。どの届出の期限がいつなのかは知っておいていいでしょう。
1.7日以内・・・死亡(事実を知った日から) ※国外の場合は3か月
2.10日以内・・裁判・遺言による認知(裁判=確定時,遺言=遺言執行者の就職の日から) 未成年者の後見開始(就職の日から)
婚姻取消の裁判の確定時 離婚または離婚取消の裁判の確定時
3.14日以内・・出生(国外の場合は3か月,船舶の中の場合は別記)
4.1か月以内・・国籍取得、国籍喪失、帰化
5.3か月以内・・国外での出生・死亡、国籍留保の意思表示(外国で生まれ、いわゆる二重国籍を取得した子は、意思表示しないと日本
国籍を失う)
さらに、届出義務者が誰かもセットで知っていてもよいでしょう。
○出生・・・嫡出子⇒父または母 子の出生時に父母が離婚している場合・非嫡出子⇒母 法定代理人でも可
※ これらの人が届出をできないとき⇒同居人、出産に立ち会った医師、同助産師、同その他の者の順で届出をする
○認知・・・認知をしようとする者、裁判の場合=訴えを起こした者 遺言の場合=遺言執行者
○死亡・・・同居の親族→その他の同居者→家主、地主又は家屋若しくは土地の管理人 の順ではあるが、順序によらず届出可能
また、同居の親族以外の親族、後見人、保佐人、補助人、任意後見人及び任意後見受任者も届け出ることができる
また、最近話題になっている夫婦別姓に関係する形で(試験作成時には関係ないでしょうが)、婚姻時の氏の変更並びに離別時の復氏に
ついても押さえておきましょう。
〇婚姻時・・・どちらかの氏を届出に記載
〇配偶者の死別時・・・婚姻前の氏に復することが“できる”(=原則はそのまま ※民法751条)⇐届出が必要(戸籍法第九十五条)
〇離婚による復氏・・(原則)婚姻前の氏に復する⇔離婚前(婚姻時)の氏を変えない場合=3か月以内に届出が必要(民法767条2項)
死別時は原則そのまま、離婚の場合は原則元の姓に戻る、というのがポイント。で、原則ではない方を望む場合は、届出が必要。ただし
死別時の復氏のは届出の期間の制限はありません。いつでも復氏が可能です。しかし、離婚の場合(変えない場合)は3か月以内という
制限があるのが要注意です。この際、手続きとしては戸籍法第七十七条の二に基づくことになります。
そして、戸籍謄本に【氏変更の事由】として、“戸籍法第77条の2の届出”と記載されていることがあります。これは何?となった時に
は、この話を頭に浮かべる必要があります。ただ、戸籍法は、届出が必要という部分だけで、内容そのものは民法なので、どちらの範囲か
は微妙ではあります。
ここまで来れば、もう一押し。内容的には民法ですが、離婚時における子の氏はどうなるのかも確認しておきましょう。
(原則)父母の離婚時には離婚の際の氏を称する(民法790条)
では、復氏した方の姓に変えたい場合は→家庭裁判所の許可を得て、戸籍法に定めるところにより届け出なければならない(民法791条)
と、なっています。
つまり、婚姻時に妻が夫の姓を称し、離婚時に妻が子供の親権を得た場合、何もしなければ、妻は婚姻前の姓、子供は離婚時(=夫)の
姓になってしまうわけです。さらに、この場合親権者である妻=母親と、子供は別々の戸籍になってしまいます(戸籍法第十八条二項)
戸籍法第十八条
第十八条 父母の氏を称する子は、父母の戸籍に入る。
➁ 前項の場合を除く外、父の氏を称する子は、父の戸籍に入り、母の氏を称する子は、母の戸籍に入る。
ちなみに、離婚時には親権者を定めて、離婚届に記載しておく必要があるので(戸籍法第七十六条)、離婚手続きと子供の氏の変更と同
時進行(離婚届提出時に子供の氏を変更する)はできません。
つまり、このまま別々の戸籍にしておくと、何かの時に子供の戸籍が必要な際、親権者である証明が必要になります。さらに、離婚理由
にDV等が関係している場合、子供の住所が変われば、住民票の住所も変わるのですが、『戸籍の附票』に住民票の住所が記載されている
ので、それによって現住所を把握される可能性があります(子供の戸籍は離婚した相手に残っているので取得できる)。
これ以上深堀りすると、戸籍法ではなく離婚指南に話が変わりそうなので、この辺で止めますが、実際には家庭裁判所の許可を得る前後
にも諸々の手続きが必要です。
3 得点させないための出題
あくまでも、得点させないための悪意を持って出題する可能性もゼロではありません。この場合は隅から隅まで覚えろ、となるのですが
それに対応するのは現実的ではないので、ここでは筆者が話題を選んで。
1・船内での出生・死亡
戸籍法 第五十一条
第五十一条 出生の届出は、出生地でこれをすることができる。
② 汽車その他の交通機関(船舶を除く。以下同じ。)の中で出生があつたときは母がその交通機関から降りた地で、航海日誌を備えない船舶の中で出生があつたときはその船舶が最初に入港した地で、出生の届出をすることができる。
戸籍法 第五十五条
第五十五条 航海中に出生があつたときは、船長は、二十四時間以内に、第四十九条第二項(出生の年月日時分及び場所)に掲げる事項を航海日誌に記載して、署名しなければならない。
② 前項の手続をした後に、船舶が日本の港に到着したときは、船長は、遅滞なく出生に関する航海日誌の謄本をその地の市町村長に送付しなければならない。
③ 船舶が外国の港に到着したときは、船長は、遅滞なく出生に関する航海日誌の謄本をその国に駐在する日本の大使、公使又は領事に送付し、大使、公使又は領事は、遅滞なく外務大臣を経由してこれを本籍地の市町村長に送付しなければならない。
戸籍法 第八十八条
第八十八条 死亡の届出は、死亡地でこれをすることができる。
② 死亡地が明らかでないときは死体が最初に発見された地で、汽車その他の交通機関の中で死亡があつたときは死体をその交通機関から降ろした地で、航海日誌を備えない船舶の中で死亡があつたときはその船舶が最初に入港した地で、死亡の届出をすることができる。
つまり、公開中の船の中での出生・死亡時には、船長と航海日誌が大きな役割を果たす訳です。
2・性別が変わった場合
戸籍には直接性別は記載されてはいませんが、【続柄】として“長男”・“二女”などと記載されているので、男女の別ははっきりわかりま
す。と、なると性同一性障害で『性別の取扱いの変更の審判を受けた』場合の戸籍はどうなるのでしょう。
第二十条の四 性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律(平成十五年法律第百十一号)第三条第一項の規定による性別の取扱いの変更の審判があつた場合において、当該性別の取扱いの変更の審判を受けた者の戸籍に記載されている者(その戸籍から除かれた者を含む。)が他にあるときは、当該性別の取扱いの変更の審判を受けた者について新戸籍を編製する。
“新戸籍の編製”とは、新しく戸籍が作られる、ということです。性別の取扱いの変更の審判を受けた者を筆頭者とした戸籍が作成される
わけです(ただし、戸籍の記載者が本人のみの場合は編製されません)。手続きは、許可をした家庭裁判所から市区町村へ通知(嘱託)
されるので、手続きの必要はありません。
試験には関係ありませんが、続柄を変更する際には”性別だけ”が変更されます。どういうことかというと、長女→長男、二男→二女とな
るのです。では、2人兄弟で弟(二男)が女性になると…。兄弟構成は、長男・二女となるわけです。普通に考えれば、これだけを見れば
少なくとも3人兄弟(長男・長女・二女)と考えてしまいますが、そうではないということです。
と。いうわけで、今回はここまで。次回に住民基本台帳法の話題で、どうにか試験前には仕上げたいと思っています。マイナカードに免
許証機能を持たせたり、以前にも触れた名前の読みの記載(これは戸籍法の話ですが)の施行が決まった話なども触れたいのですが…。
最後までお読みいただきありがとうございました。それではまた次回。