行政書士試験範囲変更の話(3・行政書士法編中編)


 行政書士試験の出題範囲が変わる話の3回目。前回に続いての行政書士法関係の話です。前回は業際問題についての弁護士法の話で

終了・・・まあ力尽きただけという話もありますが。ただ「弁護士法」という語句は、行政書士の業務について定めている条文内にも

も登場するのですが、その他の士業に関しては出て来ないので今回まとめて扱います。

 前回の話はこちら・・・⇒行政書士試験範囲変更の話(2・行政書士法前編)

 その前に、今回の話に関係する条文などをまとめて。

試験範囲変更部分

第二 試験科目
 二 行政書士の業務に関し必要な基礎知識
一般知識、行政書士法等行政書士業務と密接に関連する諸法令、情報通信・個人情報保護及び文章理解の中からそれぞれ出題することとし法令については、試験を実施する日の属する年度の四月一日現在施行されている法令に関して出題するものとする。)

行政書士法 第一条の二・三(業務)

第一条の二 行政書士は、他人の依頼を受け報酬を得て官公署に提出する書類(その作成に代えて電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によつては認識することができない方式で作られる記録であつて、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)を作成する場合における当該電磁的記録を含む。以下この条及び次条において同じ。)その他権利義務又は事実証明に関する書類(実地調査に基づく図面類を含む。)を作成することを業とする

 行政書士は、前項の書類の作成であつても、その業務を行うことが他の法律において制限されているものについては、業務を行うことができない

第一条の三 行政書士は、前条に規定する業務のほか、他人の依頼を受け報酬を得て、次に掲げる事務を業とすることができる。ただし、他の法律においてその業務を行うことが制限されている事項については、この限りでない

 前条の規定により行政書士が作成することができる官公署に提出する書類を官公署に提出する手続及び当該官公署に提出する書類に係る許認可等(行政手続法(平成五年法律第八十八号)第二条第三号に規定する許認可等及び当該書類の受理をいう。次号において同じ。)に関して行われる聴聞又は弁明の機会の付与の手続その他の意見陳述のための手続において当該官公署に対してする行為弁護士法(昭和二十四年法律第二百五号)第七十二条に規定する法律事件に関する法律事務に該当するものを除く。)について代理すること。

 前条の規定により行政書士が作成した官公署に提出する書類に係る許認可等に関する審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立ての手続について代理し、及びその手続について官公署に提出する書類を作成すること

 前条の規定により行政書士が作成することができる契約その他に関する書類を代理人として作成すること。

 前条の規定により行政書士が作成することができる書類の作成について相談に応ずること。

 前項第二号に掲げる業務は、当該業務について日本行政書士会連合会がその会則で定めるところにより実施する研修の課程を修了した行政書士(以下「特定行政書士」という。)に限り行うことができる

 「業務と密接に関連する」という点では、どこまでが行政書士の扱える仕事で、どこからが扱えない業務かを知るのは不可欠ですが

それを知るには、他士業法を避けて通れない建付けになっているわけです。さらに変更された試験範囲には「行政書士法」となって

いるので、行政書士法に限定されていないのが曲者です。というわけで、初年度から“等”に行くのかと思いつつ、業際の話の続き。

2.第一条の二・三 ~ 独占業務と業際問題

Ⅱ 業際問題

この項では、説明のために各士業の法律から業務に関係する条文を抜粋していますが、条文そのものは覚える必要はないでしょう。

要は、行政書士ができないことがわかれば十分です。

〇 司法書士法

 司法書士の独占業務については以下のようになっています。

司法書士法

第三条 司法書士は、この法律の定めるところにより、他人の依頼を受けて、次に掲げる事務を行うことを業とする

 登記又は供託に関する手続について代理すること。

 法務局又は地方法務局に提出し、又は提供する書類又は電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によつては認識することができない方式で作られる記録であつて、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。第四号において同じ。)を作成すること。ただし、同号に掲げる事務を除く。

 法務局又は地方法務局の長に対する登記又は供託に関する審査請求の手続について代理すること。

 裁判所若しくは検察庁に提出する書類又は筆界特定の手続(不動産登記法(平成十六年法律第百二十三号)第六章第二節の規定による筆界特定の手続又は筆界特定の申請の却下に関する審査請求の手続をいう。第八号において同じ。)において法務局若しくは地方法務局に提出し若しくは提供する書類若しくは電磁的記録を作成すること。

 前各号の事務について相談に応ずること

以下 省略

第七十三条 司法書士会に入会している司法書士又は司法書士法人でない者(協会を除く。)は、第三条第一項第一号から第五号までに規定する業務を行つてはならない。ただし、他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない

というわけで、手続きとしては『登記』『供託』という語が出てきたとき。書類の提出先が『(地方)法務局』『裁判所』『検察庁

となっているときは要注意となります。ただし、こちらには、“他の法律に別段の定めがある場合は”司法書士でなくても、第三条の

業務を行える(行政書士法は“他の法律において制限されているもの”はできない)ことになっています。

 行政書士が扱える、法務局に提出する書類の典型的なものが『法定相続情報一覧図』。これを作成しておくと、相続人の確認の際に

戸除籍謄本の束を一々用意することがなくなるのですが、この提出先が法務局。ですが、代理人になれるのは、弁護士・司法書士はも

ちろん、行政書士のみならず土地家屋調査士、税理士、社会保険労務士、弁理士、海事代理士も代理人になれます。

〇 税理士法

 税理士の独占業務に関しては以下。

税理士法

第二条 税理士は、他人の求めに応じ、租税(印紙税、登録免許税、関税、法定外普通税、法定外目的税、その他の政令で定めるものを除く。第四十九条の二第二項第十一号を除き、以下同じ。)に関し、次に掲げる事務を行うことを業とする

 税務代理(税務官公署(税関官署を除くものとし、国税不服審判所を含むものとする。以下同じ。)に対する租税に関する法令若しくは行政不服審査法の規定に基づく申告、申請、請求若しくは不服申立て(これらに準ずるものとして政令で定める行為を含むものとし、酒税法第二章の規定に係る申告、申請及び審査請求を除くものとする。以下「申告等」という。)につき、又は当該申告等若しくは税務官公署の調査若しくは処分に関し税務官公署に対してする主張若しくは陳述につき、代理し、又は代行すること(次号の税務書類の作成にとどまるものを除く。)をいう。)

 税務書類の作成(税務官公署に対する申告等に係る申告書、申請書、請求書、不服申立書その他租税に関する法令の規定に基づき、作成し、かつ、税務官公署に提出する書類(その作成に代えて電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によつては認識することができない方式で作られる記録であつて、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)を作成する場合における当該電磁的記録を含む。以下同じ。)で財務省令で定めるもの(以下「申告書等」という。)を作成することをいう。)

 税務相談(税務官公署に対する申告等、第一号に規定する主張若しくは陳述又は申告書等の作成に関し、租税の課税標準等(国税通則法第二条第六号イからヘまでに掲げる事項及び地方税(森林環境税及び特別法人事業税を含む。以下同じ。)に係るこれらに相当するものをいう。以下同じ。)の計算に関する事項について相談に応ずることをいう。)

 税理士は、前項に規定する業務(以下「税理士業務」という。)のほか税理士の名称を用いて、他人の求めに応じ、理士業務に付随して財務書類の作成会計帳簿の記帳の代行その他財務に関する事務を業として行うことができる。ただし、他の法律においてその事務を業として行うことが制限されている事項についてはこの限りでない

※ 条文中一部省略あり

第五十二条 税理士又は税理士法人でない者は、この法律に別段の定めがある場合を除くほか税理士業務を行つてはならな

というわけで、こちらはとにかく『』という言葉がポイントなのですが、こちらもまた例外があることになってます。で、重要なの

が、この例外に行政書士の業務が大きく関係している事です。

ここで、大事なポイントは3点。

 ①税理士と行政書士の共同独占業務

  第五十一条の二 行政書士又は行政書士法人は、それぞれ行政書士又は行政書士法人の名称を用いて、他人の求めに応じ、ゴルフ場利用税自動車税軽自動車税事業所税その他政令で定める租税に関し税務書類の作成業として行うことができる

これが、まさに“この法律に別段の定めがある場合”です。ここで挙げられている税金に関しては、行政書士扱える事になってます

(独占業務とは書いてない)。しかし、行政書士以外が扱えるか、となれば第五十二条を読むと不可能であることがわかります。した

がって、これらの税務関係の書類の作成は税理士と行政書士の共同独占業務となります(弁護士もできます)。

 自動車に関しては、諸手続きには行政書士が大きく関係するのに、税金だけ税理士の頼むとユーザーには不便すぎますよね。

 ②税理士と行政書士の共管業務

 行政書士の独占業務には「事実証明に関する書類」があります。この中には経営会計書類として、財務諸表(決算書・貸借対照表

・損益計算書)も含まれているされています。したがってこれに付随する会計記帳も扱えることになります。まあ、税理士側からは一

言あるようですが。実際事業者側からすれば、行政書士にこの作業をさせても、じゃあいくら税金を払うのか、となった際「税理士に

聞いて下さい」ではね・・・。ですので、実際には税理士が行う場合の方が多いでしょう。

建設業決算変更届

 建設業では、建設業許可を取得している業者は、毎年監督官庁に『建設業決算変更届』の提出が義務付けられていま

す。“変更届”という名前が紛らわしいのですが、要は1年間の決算内容・工事内容を届け出るのです。ですので、“変更”とい

う名は付いてますが、毎年提出するものです。さらに、この際提出する財務諸表は建設業法に沿ったものにしなければなら

ないので、決算時のものをそのまま出せません。その辺をわかってらっしゃる税理士さんは、それ用にやってくれるのです

が、そうでない場合は行政書士が建設業法に合う形に作成し直すというのもよくある話です。

 理屈の上では、行政書士が通常の財務諸表を作成して、税理士に税務署提出用の決算書を作成してもらい、これをベースに

変更届用の財務諸表を作成する、というのも可能ですが、ご覧になってわかるように、行政書士→税理士→行政書士と、手間

がかかってしまいます。しかも期限が税務署の方が先です(税務署は事業年度終了から2~3か月、建設業決算変更届は4

か月以内)。

 もちろん『建設業決算変更届』は、税務署類ではなく、許可行政庁(都道府県又は国土交通省)に提出する書類なので、作

成は行政書士しかできません

 ③そもそも『租税』ではない業務

  “~税”とは名前がついていても、第二条の『租税』に当たらなければ、問題ありません(もちろん他の法令による制限がある場合

はあります)。許認可を扱う行政書士にとって、登録免許”税”を扱えないと不便この上ないですからね。

〇 社会保険労務士法(社労士法)

 社会保険労務士(以下 社労士)の業務はもともと行政書士が行っていたのですが、1960年代の日本の急激な経済成長に伴い

企業の人事・労務分野の専門性が求められる中、1968年に社労士法が制定されました。そんな成り立ちなので、1980年に行政

書士法が改正され業務が完全分離する以前からの行政書士は“当分の間”社労士業務の一部を行うことができる、という例外があります

まあ、覚える必要はありません。ただ、肩書は行政書士しかないのに、社労士業務を扱える方もいる、ということです。

社労士法

第二条 社会保険労務士は、次の各号に掲げる事務を行うことを業とする

 別表第一に掲げる労働及び社会保険に関する法令(以下「労働社会保険諸法令」という。)に基づいて申請書等(行政機関等に提出する申請書、届出書、報告書、審査請求書、再審査請求書その他の書類(その作成に代えて電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によつては認識できない方式で作られる記録であつて、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)を作成する場合における当該電磁的記録を含む。)をいう。以下同じ。)を作成すること。

一の二 申請書等について、その提出に関する手続を代わつてすること。

一の三 労働社会保険諸法令に基づく申請、届出、報告、審査請求、再審査請求その他の事項(厚生労働省令で定めるものに限る。以下この号において「申請等」という。)について、又は当該申請等に係る行政機関等の調査若しくは処分に関し当該行政機関等に対してする主張若しくは陳述(厚生労働省令で定めるものを除く。)について、代理すること(第二十五条の二第一項において「事務代理」という。)。

※ 一の四~六は「特定社会保険労務士」のみの業務なので省略

 労働社会保険諸法令に基づく帳簿書類(その作成に代えて電磁的記録を作成する場合における当該電磁的記録を含み、申請書等を除く。)を作成すること。

 事業における労務管理その他の労働に関する事項及び労働社会保険諸法令に基づく社会保険に関する事項について相談に応じ、又は指導すること。

第二十七条 社会保険労務士又は社会保険労務士法人でない者は、他人の求めに応じ報酬を得て、第二条第一項第一号から第二号までに掲げる事務を業として行つてはならない。ただし、他の法律に別段の定めがある場合及び政令で定める業務に付随して行う場合は、この限りでない

というわけなので、ポイントは『労働及び社会保険に関する法令』に基づく業務となります。ですので、書類の提出先として考えると

「厚生労働省」となりやすいのですが、司法書士業務における裁判所・法務局、税理士業務における国税庁・税務署ほどわかりやすく

はありません。また「助成金」と名が付いている場合は、一般的には厚生労働省が行う“雇用関係の「助成金」”をいう事が多いので、

社労士扱いとなりやすいのですが、これまた簡単ではありません。一例として、全日本トラック協会が行っている“助成事業”には、安

全対策・環境対策などがありますが、当然資金の出所が”雇用関係の「助成金」”ではないので、社労士の独占業務にはあたりません。

 では、何が決め手となるかとなると、【根拠法】と【資金の原資】といったところでしょう。

 根拠法は、まさに『労働及び社会保険に関する法令』そのもの。労働基準法、職業安定法・雇用保険法など。

 資金の原資は、そのお金の原資が、雇用保険・労働保険・健康保険・介護保険などから出ている場合は、社労士の独占業務となる

わけです。ですので、介護事業などで申請先が“市区町村”であっても、お金の出所が「介護保険」であれば、社労士の業務といえます

 一方、個人の国民年金・厚生年金などで、「手続き」を行うのはアウトですが、例えば、今の段階でいくら年金をもらえそうか、支

給時期をいつにすると受取額がどう変わるか、などの計算。それに基づく相談を受けるのはセーフです。行政書士の話ではないですが

FPがライフプランニングの相談を受ける際に、年金計算・同相談がアウトだと商売あがったりです。

「補助金」の申請

 「助成金」とよく似た印象を持たれる制度として「補助金」というのもあります。これもまたややこしいのですが、まずは

簡単な話から。助成金の申請代行ができるのは社労士だけです(社労士法の独占業務に「提出に関する手続を代わつてする

とあります。ちなみに行政書士法にはこの一文がありません。もちろん自分でやるのは可)。これが補助金になるとどこかの

士業に独占業務として定められていません。ですので「申請代行」には資格は必要ありません

 ただし、申請に伴う書類作成代行に関しては行政書士の独占業務にあたります。依頼者自身が書いた書類を「添削」するの

はOKですが、丸投げでお願いします、は行政書士以外できません。ただし、補助金の種類によっては行政書士であっても丸

投げできないのもあります(事業再構築補助金など)。

〇 弁理士・土地家屋調査士・建築士

 この辺も業際問題が関わってきます。ここからは、関係法令を挙げると余りに全体が長くなってしまうので省略します。まずは、弁

理士から。

 弁理士といえば、特許をはじめとした知的財産分野のスペシャリスト、というイメージが強いと思いますし、それは間違いではあり

ません。では「知的財産」とは何ぞや?ということです。先述の特許や実用新案・商標なんかは浮かんでくるでしょう。また、著作権

や、種苗法にまつわる品種登録などの農業分野というのを思い浮かべる方もいるかもしれません。

 弁理士の独占業務についてのキーワードは「産業財産権」。知的財産権の中で、特許権・実用新案権・意匠権・商標権の4つを

「産業財産権」といい、特許庁の所管になります。この産業財産権の出願書類・異議申立て等・経済産業大臣への裁定請求書の作成が

弁理士の独占業務です。それでは、著作権は?というと、著作権・プログラム著作物など文化庁への登録申請業務行政書士の独占

業務です。また種苗法に基づく品種登録出願も行政書士が行える業務です。

 ただし、この辺に関しては、登録申請業務は独占業務になっていても、移転登録や契約書作成などは、弁理士も行政書士も行える

場合が多いので、「登録」という言葉もできる業務か、できない業務かを見分けるポイントになると言えます。

 最後に、土地家屋調査士と建築士。土地家屋調査士に関しては、いわゆる“士業”という分類的には同じ仲間に入るので、業際がある

だろうというのは想像しやすいでしょう。一方、建築士は同じ“士”の文字があるとはいえ、全然違う仕事では、と思うかもしれません

が、ここにも業際があります。ポイントは、行政書士の独占業務には『その他権利義務又は事実証明に関する書類(実地調査に基づ

図面類を含む)を作成することを業とする』の一文があるから(第一条の二)。

 行政書士の業務には、車庫証明における図面作成・風営法絡みの店内図面・農地転用許可申請の際など、許可申請の際に図面を提出

する場合が多々あります。“書類作成”の中にはこのような図面作成も入ります。というところで、どんな図面でも作っていいか、とい

う問題も出てくるわけです。

 で、ここのポイントは、①不動産登記表示に関する申請書・図面関係は土地家屋調査士の独占業務(登記に関係しない、権利義務

事実関係に関する土地・家屋の図面作成は行政書士の独占業務・・・上記の例)。②一定種類・規模の建築設計に関する図面は、(一

級または二級)建築士の独占業務、になってます。

 最後はやや駆け足になりましたが、大事なことは、行政書士目線から見れば、何が行政書士の独占業務で、何がやってもいいことで

何がやってはいけないか、を把握しておくことです。まあ、長々書きましたが、まさか1年目からこのような傍題へは入り込まないと

は思いますが・・・。

 次回は、目玉の1つであろう、特定行政書士の話と、その他の条文についても書いていきたいと思います。早く書かないと、試験も

近づいてきてますから・・・。最後までお読みいただきありがとうございました。それでは、また次回。


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